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『格差先進国イギリスの教訓』を読んで

これは実は副題で、本題は、

 『中流社会を捨てた国

           格差先進国イギリスの教訓』

             Polly Toynbee, David Walker 著
             青島 淑子 訳
             東洋経済新報社
             2009年9月10日 発行

原題は、
 
 『UNJUST REWARDS:
  Ending the Greed that is Bunkrupting Britain』

となっています。この原題を直訳すれば、さしずめ、

 『不当な報酬:
  イギリスを破滅させる強欲の終結』

とでもなるのでしょうか。

この本の著者の Polly Toynbee氏は、『ガーディアン』紙の政治・社会担当コメンテータ。David Walker氏は、『ガーディアン』紙がパブリックセクターの管理職を対象に発行する月刊誌『Public』の編集と、『インディペンデント』紙の主任論説委員も務め、現在は、イギリス経済社会学術評議会のメンバーで、英国最大の社会調査機関、ナショナル・センター・フォー・ソーシャル・リサーチのディレクター。

 本書を読むと、題名にもあるとおり、イギリスが、世界の貧困格差社会の先進国だったことが、その原因も含めてよくわかります。主な内容を以下、『』で示す。

 『2008年までのバブルの10年間、わが国では社会がいよいよ一体感を失い、格差がますます拡大した。』

 『財政研究所(IFS)の調査によると、2004年、上位1%は全所得のほぼ、13%、上位10%(上位1%の分は除く)は27%強を占めている。しかもこの数字は申告された所得にすぎない。』

 『20年前、FTSE100(ロンドン証券取引所の株価指数:100種総合株価指数)に入るある企業の平均的なトップは、平均的な従業員の17倍稼いでいた。取締役協会によれば、2008年には、それが、75.5倍にのぼっている。』

 1979年に誕生したサッチャー政権は、この年、所得税の最高税率を、83%から60%へ引き下げ、最終的に最高税率は、1988年に、40%へ引き下げられた。こうして、わが国は、ヨーロッパで最も所得税率の低い国の一つとなった。』

 1979年は、昭和54年で、わが国(日本)では、消費税案が出されたころで、その5年後の昭和59年から、イギリスのまねをして、所得税の最高税率の引き下げが始まり、わが国では、1999年には、37%にまで引き下げられた。同時にこの時期に、所得税の減収対策として、消費税の導入(3%)と、その後の5%への引き上げが強行された。

 『「富の再分配」が最大の課題
  所得と富の不平等が増大すれば、民主主義の基盤が損なわれる。

 『格差拡大という代償を払って手に入れた繁栄は長続きしない。経済成長は、もっと平等な基盤のうえにこそ長く続いていくものである。』

 そして、本書は、『富裕層の実態』『貧困層の実態』から、『ここに税金を使いたい』と教育や、就職支援の必要性を説き、最後に『税こそ、この国のかたち』として、慈善事業の限界を説きながら、『今、おこなうべきこと』として、『18の提言』を出している。

 まず、前段で、いくつかの問題点と、オバマ大統領の発言が説明されているのでこれについて引用する。

 『政界のムードや世論は変わりつつある。2008年初夏、フィナンシャルタイムズ紙とハリス社は、ヨーロッパ、アジア、アメリカで世論調査をおこなった。すると、金融が大崩壊する前だったにもかかわらず、世論は「驚くほど堅実」だった。圧倒的多数が「格差が広がりすぎている」と答え、わが国ではその割合は74%、「伝統的に所得の不平等にはもっと寛容なはずの」アメリカでも78%に達した。また、「富裕層に対しては、税負担をより重く、貧困層に対してはより軽くすべき」という考え方が広く支持されていることもわかった。』

 『イギリスは良きにつけ悪しきにつけアメリカの後を追ってきた。だが、アメリカは、次の段階へ進みつつあり、政治の風向きも変わってきた。ブッシュ政権からオバマ政権となったことで、政策に新しい選択肢が生まれ、これまでとは異なる理念が語られるようになった。政治においても経済においても市場至上主義がすべてを蹴散らしていた時代は終わった。オバマは、金持ちに税金を公平に負担させる、1000万人の貧困層への負担を軽減させる、と公約したにもかかわらず選挙に勝った。いや、そう公約したからこそ勝ったのかも知れない。タックスヘイブンを閉鎖し、強欲と過剰の文化と戦うとオバマは言った。
 こうした驚くべき公約を掲げたオバマは、富裕層からも票の52%をとって勝利した。
  企業トップの非常識な報酬についてもオバマは遠慮なく言及した。額に汗し て一生懸命に、献身的に働いてきた人の生活よりも、強欲で無責任なウォール街を優先させてきたこれまでの政治を転換するときが来た。億万長者や大企業を優遇しよう。そうすれば儲けのおこぼれがみんなに行き渡る---そんな理論はうんざりだ。あと4年も同じ話を聞くのはもうたくさんだ。」
 オバマはブラウン首相が新労働党のアジェンダに取り上げなかった、タックスヘイブンの問題にも言及した。「ケイマン諸島のあるビルには、アメリカに本拠を置く企業が1万2000社も入っている。そのビルが世界最大の大きさなのか、それともそこで世界最大の税金詐欺がおこなわれているのか、そのどちらかということになる」。オバマは「税制に公平性を取り戻す」ことも約束した。「自由市場の『自由』がどんな方法でどんなものでも手に入れていいという意味だったことは一度もない」。バブル全盛期にシティーに迎合していたブレアからもブラウンからも聞かれなかった言葉である。』

 では、『18の提言』から主なものをあげてみましょう。

○ 高額報酬審議会を設立し、そこで、高額報酬のガイドラインを策定すべきである。

○ 租税回避(タックスヘイブン)を許してはいけない。租税回避を阻止するだけで、税率を引き上げるより税収が増えるはずだ。

○ 『非定住者』の数は近年急増している。なんらかの対策が急務である。

○ 最高税率を引き上げるべきである。そうすれば、税負担の格差を軽減できる。

○ 富裕層を対象に、貧困家庭の子どもを支援するための税を設定すべきである。

○ 相続税の税率引き下げは撤回すべきである。世代を超えた格差拡大をこれ以上許してはいけない。

○ 公平性を追求すべきなのは税だけではない。家族が安心して暮らしていける額の賃金を保障すべきである。

○ 最低賃金で働く人の大多数が女性である。女性への不公平な賃金をなくすべきである。

○ 税額控除を引き上げるべきである。

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